バセドウ病のアイソトープ治療について

バセドウ病の治療は日本においては抗甲状腺薬(メルカゾール®️、プロパジール®️)が第一選択になりますが先日の記事にも書いたように時間のかかる治療であり再発もあるなどの事情からアメリカではアイソトープ治療が9割と言われています(ヨーロッパでは日本と同様に内服治療が主体です)。

バセドウ病の治療の実際

1941年にアメリカで試みられて以来全世界で行われてきた治療であり安全性は十分に確立されていると考えていただいて良いかと思います。

さて、実際の治療がどんなものになるかというと放射性ヨードのカプセルを飲むだけで終了します。よくやるやり方だとカプセルを3つ飲むだけで終了でそのまま帰宅いただけます。

使う核種は131-Iというヨードの放射性同位体でβ(ベータ)崩壊を起こしたのちにγ(ガンマ)崩壊をおこして安定したXe(キセノン)になる過程で放射線を出す物質です(半減期は8.2日、生物学的半減期は80日)。

ヨードは甲状腺ホルモンの材料として重要です。

チロシンというアミノ酸をもとにヨードが結合したものが甲状腺ホルモン(T3, T4)です。

少々専門的になりますがチロシンを側鎖にもつサイログロブリン(Tg)という糖蛋白を甲状腺濾胞細胞が作り、チロシン残基のベンゼン環に甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)によりヨードが結合し、さらにヨード化チロシン残基同士が縮合することで甲状腺ホルモンが産生されます。

身体に吸収されたヨードは甲状腺以外にはほとんど溜まらないので他の臓器への影響を最小限にして甲状腺だけを内側から壊す治療となります。

十分に甲状腺に放射性ヨードを蓄積させる為にヨード制限が必要になります。日本人は普段からヨードを必要量の10倍程度(1-3 mg)とっていると言われています(甲状腺ホルモンを作るのに必要とされる推奨量は0.13 mg)。

(圧倒的に昆布に多いです。味噌汁一杯でも必要量に達します。なのでヨード制限は原則として和食はダメで出汁が入っているようなもの出来合いのお惣菜やレトルト食品、スナック類なども控えていただく必要があります)。

ヨード制限が不十分だと放射線治療の効果が出ず2回目のアイソトープ治療を一年後に必要とすることもあります。

また、抗甲状腺薬(メルカゾール®️、プロパジール®️)の内服はヨードの取り込みに影響が出る可能性があるため休薬します。

施設にもよりますがアイソトープ内服の72時間後(三日後)から再開することが多いです。

施設によってはヨードの吸収率を調べる為に検査用の放射性ヨード(123-I)を内服して3時間後、24時間後にシンチグラフィというどのぐらい放射線が出ているか(=ヨードがどのくらい甲状腺に溜まったか)を確認する検査を行います。

微量なのでヨード制限には影響しません。また放射線被曝も無視できるレベルです。

カプセルを飲んでから2-3ヶ月の間は内側から甲状腺が破壊される為、一時的に破壊性の甲状腺中毒症になることが予想されます。

その間は抗甲状腺薬の治療を続けます。4ヶ月目ぐらいで十分に甲状腺が破壊されると機能低下をきたすので甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS®️)の補充を開始します。半年後ぐらいには体調も元どおりに戻りすっかり元気になることが期待できます。

最大のメリットは入院が必要ないこと、全身麻酔での手術のリスクや傷跡が残らないことが挙げられます。

デメリットとしては治療して元気になるまで半年程度を要することや甲状腺自体は小さくならないので首の腫れは残ることが挙げられます。

また、一週間は濃密な接触は控えていただくこと、半年間の避妊が必要になることが重要です。

あと、甲状腺ホルモンが一時的に多すぎるところから低下になるなど代謝の変動があるため太りやすい時期がきます(特に4-6ヶ月ぐらい)。この間十分に食事制限をできるかが大事なポイントであり通常は1ヶ月おきに通院いただいて甲状腺機能や体重管理などを細やかに見る必要があります。

落ち着いてしまえば甲状腺機能の採血は半年に一度程度で大丈夫ですし、バセドウ病の再発再燃によるしんどさからは解放されることもあり長年治療してきて抗甲状腺薬がやめられない人や逆に結婚や出産といったライフイベントの前にバセドウ病を治してしまいたい人におすすめしています。

当院もこれからバセドウ病治療をしていく上でアイソトープ治療が可能な医療機関と連携して必要な人に必要なタイミングでアイソトープ治療をおすすめしていく予定です。少々ややこしく理解しにくいことも多い治療のオプションですが丁寧にご説明して納得して受けられた方はもっと早くやっておけばよかったと言う方も多い印象です。

なにか疑問点などありましたらお気軽にお尋ねください。

副院長 当真貴志雄

 

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