バセドウ病の治療の実際

今回はバセドウ病の薬物治療についてのお話です。

以下が今回のポイントです。

  • 2種類の抗甲状腺薬(メルカゾール®︎、プロパジール®︎)があります。
  • 治療開始しておよそ3ヶ月以内には甲状腺機能は正常化します。
  • バセドウ病は痩せる病気ではなく治るとリバウンドする病気です。
  • 甲状腺機能が正常化しても自己免疫の異常(自己抗体)はすぐには改善しません。
  • 抗甲状腺薬がよく効いて低下症になっても自己抗体が残っている場合には急いで減量せず合成甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS®️)を併用します。
  • およそ3-5年かけて自己抗体が減少していき陰性になるのを確認しつつお薬を減らしていきます。
  • お薬を減らすとよく再燃します。根気よく付き合っていくことが必要な病気です。
  • 妊娠希望者にはメルカゾール®️は使えません。ライフイベントにも配慮した治療計画が必要です。

バセドウ病と診断されたら日本では内服薬での治療が第一選択となります。アメリカでは放射線治療(アイソトープ)が9割です。

近年といっても10年以上たちますが(1998年から)、日本でもアイソトープ治療が外来で出来るようになりました。基本的には薬物治療が上手くいかなかったり副作用などで治療を続けるのが難しい時に患者様にお話をして手術かアイソトープ治療を選択いただくことになります。

手術、およびアイソトープ治療の実際についてはまた日を改めて説明するとして今回は第一選択である内服薬での治療についてです。

バセドウ病の治療薬(抗甲状腺薬)は基本的には二種類しかありません。メルカゾール®︎(チアマゾール:MMI)、プロパジール®︎(プロピルチオウラシル:PTU)です。古典的な薬であり安全に内服いただけるのですが、副作用の頻度が比較的多く代表的なものとして無顆粒球症や肝機能障害、じんま疹などが挙げられます。

https://www.aska-pharma.co.jp/mercazol/sef2/02_001.html

https://www.aska-pharma.co.jp/mercazol/sef2/03_001.html

こうした副作用が起きなければおよそ2-3ヶ月以内には甲状腺機能は正常になり困っていた症状は無くなります。

が、ここで大事なこととして覚えておいていただきたいことがいくつか。

ひとつはまずバセドウ病といえば痩せる病気、というイメージが一般的だと思いますが、専門的にはむしろリバウンドする病気です。甲状腺ホルモンは代謝を上げて身体を元気に活発にするホルモンですが、代謝亢進状態では食べるカロリーより使うカロリーの方が多くなり痩せます。この時に筋肉も落ちて行きます。そして治療が成功しホルモンが正常に戻ったあとに残るのは筋肉が落ちて基礎代謝の落ちた太りやすい体と代謝亢進のせいでたくさん食べたくなってしまう大きくなった胃袋です。

治療のせいで太ったと思われる方がそこそこおられるのですが、どちらかというと病気のせいで代謝が落ちて太りやすい体になってしまった、が正解です。さて、そこで治療を中止すると自己免疫の異常が解消していないので数ヶ月後にはほぼ確実に再燃します。なので粘り強い治療継続と元気になったところでの運動(筋トレ)と食事制限(特に甘いもの)がとても大事になってきます。この辺りは実際に診察しながらお話してよく理解していただけると、あまりひどく太ったりする方は少なくなった印象もありますので専門医の腕の見せ所でしょうか?

お薬がよく効くと甲状腺ホルモンの産生が抑制されるので低下症になることもしばしば経験されます。そこで慌てて内服薬を減量すると自己免疫の異常は解消していないのでしばしば再燃して動悸や頻脈などでしんどくなる上に、治療に余計に時間がかかるので状態を見ながら抗甲状腺薬は減量せず甲状腺機能低下症に対して合成甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS®️)を内服するやり方もあります。

内分泌代謝科専門医領域では病気による異常なホルモン産生を薬で抑制して(block)、身体に必要なホルモンは内服などで補う(replacement)ことをよくやります(block and replacemnet therapy)。こうすることで安定した治療が長期間可能になります。

内服薬は通常3錠で開始し数ヶ月ごとに様子をみながらゆっくり減らして行きます。すごく順調にいって3年程度で卒業できる方もおられますが多くは5年程度は最低でもかかりますし再発を繰り返して10年ぐらいかかることもしばしばあります。その間に手術あるいはアイソトープ治療を選択される方もおられます。

慌てて治療をやめないことも大事ですが、粘り強く治療を続けながらもどこかで内服治療を諦める選択も考える必要がありますので主治医とよく相談することが大事です。

さて、もう一つ大事なポイントがあります。メルカゾールの方がプロパジールより副作用の頻度も少なく効果も強いので通常こちらを使うのですが2011年の報告(POEMスタディ)で胎児奇形のリスクが増えるということがわかり、妊娠中に使えなくなってしまいました。プロパジールは妊娠中も授乳中も使用可能です。

なので20代から30代に起きやすいバセドウ病治療については妊娠出産といったライフイベントも見据えた治療計画が必要になりますし、手術やアイソトープ治療後にも専門家が経過を慎重に観察する必要があります。

バセドウ病治療に何か疑問があれば気軽にお尋ねください。

副院長 当真貴志雄

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